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こうして改めて世界的な映画監督の履歴を知ると、同じ芸術の分野でも詩人や画家、写真家、アニメーターなど様々な職種から映画監督に転身した人物も多く、キャリアの初期は自らの芸術性を磨いてからスタートしている印象が強いですね。どんなジャンルの映画を制作する監督でも、映画史に名を残すほどの人物はやはり自分独自の鋭い感性を持ち、それを磨き続けているのではないでしょうか。もし映画監督を目指すなら、自分にしか出せない感性を身につけて切磋琢磨していくほかないのかもしれません。何はともあれ、一映画ファンとしては、今後も新たに素晴らしい映画監督が誕生し続けてくれることを願っています!オーストリア人監督ミヒャエル・ハネケの作品を鑑賞すると、基本的に不快な思いを経験します。しかしそこがポイントで、ハネケ監督は私たちに「映画で楽しい時間を過ごしてほしい」という思いがないのです。むしろ私たちに行動の先にある結果を考えてほしいという願いがあり、そもそも彼の映画を観に行くことに罰を与えたいという考えが根本にあります。ハネケ監督は唯一無二の存在で、彼のような大胆な映画監督はほとんど存在しません。撮影手腕は器用で冷酷、そして複雑さを兼ね備えており、一つの作品に社会的主張、歴史的解析、映画批評が組み込まれています。老夫婦の介護を描いた『愛、アムール』(2013)は特に衝撃的な作品です。日本での一般的な知名度は低いものの、『白いリボン』(2010)から『愛、アムール』と、2作連続でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを獲得するほどの世界的知名度を誇っています。批評家も映画ファンも唸らすその作風が、コアなファン層を構築しているようです。リアリズムとブラックユーモアをベースに、独自の撮影手法でSFから戦争物や歴史物、サスペンスなど幅広いジャンルの作品を創作してきたスタンリー・キューブリック。写真家出身の映画監督で、初期の頃から製作・脚本も兼ね、作品全体を掌握する「完全主義者」とも呼ばれました。ファンのみならず、一般的にもSF映画の傑作として知られる『2001年宇宙の旅』を製作したのは1968年。これがキューブリック作品中一番の評価が高く、次いで初期作のクライム・サスペンス『現金に体を張れ』(1957)と戦争映画『突撃』(1958)も高い評価を受けています。同等に評価されている作品が、ディストピアSF『時計じかけのオレンジ』(1972)とベトナム戦争物『フルメタル・ジャケット』(1987)で、どちらもその暴力性とシニカルさで世に衝撃を与えました。同様に『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964)でも、皮肉なブラックユーモアが炸裂。これこそ、キューブリックの作風を代表する作品といえます。スタジオやプロデューサーが最高権を握る「ハリウッド・メジャー」の製作システムを嫌い、1961年にはイギリスへ移住してまでも「完全主義」を貫こうとしました。そんな完璧を求める映像作家としての姿勢が、リスペクトされる所以かもしれません。生涯で30本の作品を生み出し、今も世界的に高い評価を受け続けている日本を代表する映画監督・黒澤明。スピルバーグやコッポラ、北野武など著名な監督にも多大な影響を与えています。初めは画家を志していた黒澤ですが、1936年に助監督としてP.C.L.映画製作所に入所して下積みを重ね、1943年に『姿三四郎』で監督としてデビュー。それ以来、遺作となった1993年の『まあだだよ』までの50年間、第一線の監督として日本映画史に残る作品を作り続けました。黒澤監督作の中でも一番評価が高かった作品は、やはり代表作として広く知られる『七人の侍』(1954)。同じく黒澤映画の特徴であるダイナミックな映像が堪能できる時代劇『用心棒』(1961)や『椿三十郎』(1962)も人気の高い作品です。一方で『生きる』(1952)や『天国と地獄』(1963)など現代劇も高評価を得ており、もう一つの特色であるヒューマニズムが色濃く描かれた『生きる』は時代を経ても支持されて続けています。1980年代は『影武者』(1980)、『乱』(1985)、『夢』(1990)と外国資本による製作が続き、国内では文化勲章を受章し、ハリウッドでアカデミー名誉賞を受賞するなど、まさに日本を代表する映画監督として名誉ある晩年を迎えました。1998年に死去した後、映画監督として初めて国民栄誉賞を受賞しています。日本の映画監督の中でも、独特の美意識と世界観を持つ映像作家として名高い岩井俊二。自身の作品の多くで編集・脚本や音楽も担当しています。常に時代の先端を走り、ネット上のBBSによる大衆参加型小説の映画化や、WEB配信の短編映画制作など、新しい技術や流行を取り込むことにも熱心です。ファンから高評価を受けているのは、初期の代表作『スワロウテイル』(1996)と新時代の傑作『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)。『スワロウテイル』ではどこにもない無国籍な街を独特な美的感覚で表現し、黒木華を当て書きした『リップヴァンウィンクルの花嫁』では原作小説の執筆もこなしました。他にも1995年の『Love Letter』は、それまでテレビドラマやCMを手がけていた岩井監督にとって初の劇場長編映画で、国内の映画賞の数々と韓国など海外での人気も獲得しました。同じく高評価の『花とアリス』は、2003年にWEB配信の短編映画として制作されたものを2004年に長編映画化。2015年には『花とアリス殺人事件』としてアニメ映画化もされて、好評を博しました。2020年には『Love Letter』のアンサー映画となる『Last Letter』が公開。岩井監督の故郷・宮城県を舞台にし、自身の原体験を元にした集大成といえる作品となります。常に新しいものを追求してきた岩井監督が、今再び「手紙」というツールを使ってどのような物語を創り出すのか、期待が高まりました。「サスペンス映画の神様」と呼ばれたイギリスの映画監督ヒッチコックは、撮影技術を駆使した良質なスリラー映画を作り続けました。キャリア後半からはハリウッドへ活躍の場を移し、製作と脚本も自ら手がけています。ファンから高評価を得た作品は1954年の『裏窓』。ハリウッド時代の作品で、主演にジェームズ・スチュアートとグレース・ケリーを迎えたサスペンス映画です。裏窓から見える人間模様から起こる殺人事件を描いています。『裏窓』に続く評価の高い作品は他にもたくさん!ハリウッドデビュー作『レベッカ』や(1951)、ヒッチコックの黄金期といわれる1950年代に制作された『めまい』(1958)や『北北西に進路を取れ』(1959)は珠玉のスリラー映画です。また、1960年の『サイコ』は心理的描写を描くクライム・サスペンスの傑作として後々大きな影響を及ぼしました。あまりにも有名なシャワーシーンは、様々な模倣を生み出しています。ヒッチコックは1980年に80歳で生涯を終えていますが、2012年には『サイコ』の製作舞台裏を描いた伝記映画『ヒッチコック』が制作されて再び注目を集めました。サスペンス映画好きに愛され続けるヒッチコックは、自身の作品に必ずカメオ出演することでも有名。そんなユーモアもファンにはたまらない一面です。日本はもちろん世界中に多くのファンを持ち、その唯一無二の映像美でさらなるファンを増やし続けているティム・バートン。元々のキャリアのスタートは、ウォルト・ディズニー・スタジオでのアニメーターでした。ティム・バートンといえば、1990年の『シザーハンズ』は外せない作品。1988年の『ビートルジュース』をスマッシュヒットさせた翌年、『バットマン』(1989)の監督として名を馳せ、ついに自身で監督・製作・原案を務めた『シザーハンズ』で、独自のファンタジックな映像世界を確立させました。1993年にはバートン監督が描いた絵本『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』が映画化され、大ヒットを記録。2005年の『チャーリーとチョコレート工場』では、バートン監督独特のセンスが光るファンタジーとミュージカルの融合を見せました。2019年にはディズニーアニメ『ダンボ』を原作とした実写映画を製作。ダンボはフルCGで描かれ、大きな耳を持つダンボが空中を飛ぶシーンを見事に実写との融合で表現しています。アニメーター出身で絵本も描く芸術家としての一面もあり、バートン監督の一番の魅力であるダークかつカラフルでファンタジックな世界観は、やはり唯一無二のもの。『フランケンウィニー』(2012)のようなストップモーション・アニメが再び制作されることも、今後期待したいところです。園子温は非常に作家性の高い日本の映画監督です。17歳で詩人デビューし、大学時代から8ミリ幅のフィルムを使用した8ミリ映画を制作。1986年に制作した8ミリ映画『男の花道』で「ぴあフィルムフェスティバル」グランプリを受賞し、スカラシップで制作した『自転車吐息』(1990)は数々の映画祭で上映されて一気に海外での評価が高まりました。批評家からもファンからも高評価を得た『愛のむきだし』(2009)は、体当たりで主演を務めた満島ひかりの知名度を一気に上げ、第59回ベルリン映画祭で「カリガリ賞」と「国際批評家連盟賞」を受賞しています。2011年には、埼玉愛犬家連続殺人事件をベースに人間の狂気をえがいた『冷たい熱帯魚』を制作。殺人犯を演じたでんでんが国内の各映画賞で助演男優賞を受賞し、作品賞・監督賞も受賞して高い評価を得ました。初の漫画原作に挑戦した『ヒミズ』が2012年に公開され、第68回ヴェネチア国際映画祭でコンペティションに出品。主演を務めた染谷将太と二階堂ふみが、日本人初の「最優秀新人俳優賞」を受賞する快挙をもたらしました。さらには街頭詩パフォーマンスを主宰したり、芸人として舞台デビューしたり、美術館で個展を開いたりと、その活動は映画制作だけに留まらず、多方面で芸術的センスを磨き続けているようです。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015)でアカデミー賞監督賞、脚本賞、作品賞を受賞したイニャリトゥ監督。近年、アカデミー賞ではキュアロン監督やギルレモ・デル・トロ監督などメキシコ勢が連続で監督賞を受賞しており、ハリウッドにメキシコからの新風が吹いているのは間違いありません。これまでに『アモーレス・ペロス』(2002)、『21グラム』(2004)、『バベル』(2007)などのセンセーショナルな作品を手がけており、観終わった後には少しどんよりした気分になるのも特徴。しかし『アモーレス・ペロス』はファンの間では伝説的なデビュー作で、評価もいまだ高い作品です。他に高い評価を獲得しているのはハビエル・バルデムを主演に迎えた『BIUTIFUL ビューティフル』(2011)。レオナルド・ディカプリオに初のアカデミー賞主演男優賞をもたらした『レヴェナント:蘇えりし者』(2016)も同じく高評価を得ており、イニャリトゥ監督ならではの芸術的な作風が大いに評価された結果といえるでしょう。そんなイニャリトゥ監督は常に芸術性の高い知的な作品を製作しようとしています。イニャリトゥ・ワールドはこれからもっと劇場で見れることでしょう!クエンティン・タランティーノは、おそらくどの時代でも最も人気のある映画監督の一人です。それはタランティーノ作品が常にエンタテイメント性の強い、クールで徹底したバイオレンスや激しく冒涜的な描写から来ているのかもしれません。彼のファンの多くは初期作の『レザボア・ドッグス』(1993)や『パルプ・フィクション』(1994)がタランティーノの代表作であると述べており、あるファンが「タランティーノは後者の映画でピークを迎えた」と発言して議論になったこともあるんだとか。それほど初期からのタランティーノ監督のファンは熱狂的!しかし、その後公開された『キル・ビル』(2003)と『キル・ビル Vol.2』(2004)や、『イングロリアス・バスターズ』(2009)、そして『ジャンゴ 繋がれざる者』(2013)はどれも話題作となり大ヒットしました。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが共演する2019年の新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も、8月30日の日本公開が待ちきれません!ポール・トーマス・アンダーソンはアウトサイダー的人物で、彼の映画は変わっていて、奥深いものが感じられます。それと同時に現代の私たち鑑賞者を、故意に遠ざけているようにも見えます。2015年の『インヒアレント・ヴァイス』は、そんな複雑な感情が要約された作品。本作はトマス・ピンチョンの小説『LAヴァイス』が原作で、1970年を舞台にマリファナ中毒の私立探偵が元恋人の依頼を受けたことからさまざまな陰謀に翻弄される様子をポップに描いています。アンダーソンの作品は2回目に見ると良い映画だと感じるかもしれません......。なぜならほとんどの作品が分裂的で、「良いか悪いか」の2極に分かれることが多いからです。しかし実は、世界三大映画祭で監督賞を受賞しているすごい監督なのです!代表作となった『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2008)でベルリン国際映画祭の銀熊賞、2012年の『ザ・マスター』でヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞、そして2002年の『パンチドランク・ラブ』でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞しています。また最新作の『ファントム・スレッド』(2018)では、第90回アカデミー賞で監督賞を含む6部門にノミネートされるという快挙を成し遂げ、世界的に見ても高く評価されていることは明白です。『E.T.』(1982)や「ジュラシック・パーク」シリーズ、「インディ・ジョーンズ」シリーズでおなじみのスティーヴン・スピルバーグ監督。「昔の方が光っていた」や「近年彼の良い映画は見ない」など、“忘れられた時代の遺品”として最近メディアで扱われることが多くなっています。しかし、これまで彼が手掛けてきた多くの作品は世界的に有名で大ヒット作ばかり。洋画に詳しくない人でも彼の名前を知らないという人は少ないのではないでしょうか。近年では2015年に、冷戦時代の1960年代を舞台にした大作『ブリッジ・オブ・スパイ』を製作。アメリカで捕らえられたソ連のスパイと、ソ連で捕らえられたアメリカ人スパイの交換交渉にあたった弁護士の姿を描いています。約10年ぶりにスピルバーグ作品で主演を務めるトム・ハンクスが主人公ジェームズ・ドノバンを演じ、『ノーカントリー』のイーサン&ジョエル・コーエン兄弟が脚本を手がけています。2018年の映画『レディ・プレイヤー1』では、全世界の人気キャラクターがクロスオーバーし、VRの世界を3Dで描いて大きな話題となりました。常に革新的な手法を模索し、いつも観客に新鮮な驚きを届けてくれる、いつまでも映画製作に意欲的な監督です。映画監督になるにはまず、映画学科のある大学や専門学校へ行って、映像の専門的知識を学ぶ方法があります。実際に作品を撮影する実習もあり、映画制作の流れを知ることもできます。エキストラやアシスタントの募集があれば、学生のうちに現場体験もできるかもしれません。他にも、制作現場で雑用係をしたり、監督の下で助監督を務めて経験を積む方法も。以前はこうした、助監督から独立して監督になる方法が定着していました。しかし現在では、自主制作作品をコンテストに応募して道を開く方法も一般的になってきています。また、インターネットで全世界に自分で作った作品を発信できるようになった今、より多くのチャンスと方法が見出せるのではないでしょうか。70歳を過ぎると活動規模は縮小していくハリウッドのなかで、マーティン・スコセッシは何十年も映画監督して第一線で活躍している珍しい映画監督です。『タクシードライバー』(1976)や『レイジング・ブル』(1981)、『グッドフェローズ』(1990)は何十年経った今でも名作と呼ばれています。スコセッシ監督の撮影手法は伝説的で、シンクロされた視覚と聴覚を上手く映像化し、彼のスタイルを真似て映画製作をする監督も少なくありません。2013年の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、そんなスコセッシのこれまでのキャリアを称えた作品だといえます。年齢に関係なく規定のルールを破ろうとするチャレンジ精神を持つスコセッシ監督ですが、遠藤周作の小説『沈黙』の映画化にも挑戦。浅野忠信や窪塚洋介、イッセー尾形、小松菜奈といった日本人俳優も出演しています!ファンの間ではもはや伝説となっている代表作『タクシードライバー』と同等の高い評価を受けた『沈黙 サイレンス』(2017)は、江戸時代の日本を舞台にキリスト教信仰を求める人々を鮮烈に描いた問題作。2019年には新作『ジ・アイリッシュマン(原題)』も公開され、まだまだ果敢な挑戦は続いているようです。デヴィッド・フィンチャーの映画製作におけるアプローチは本能的にニヒルであると言えますが、色やストーリーの明暗を上手に使いこなせる監督でもあります。彼の映画は“指導された”というより、“指揮された”やり方で製作されており、役者にいい演技をさせる術を理解しているのです。これまでに数々の映画を生み出してきたフィンチャー監督ですが、駄作は一切なく、『パニック・ルーム』(2002)や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2009)では十分なアイデアと創造性が描かれています。猟奇殺人を描いた『セブン』(1996)や奇想天外な展開が魅力の『ファイト・クラブ』(1999)、Facebookを創設したマーク・ザッカーバーグらを描いた『ソーシャル・ネットワーク』(2011)などはベストチョイスですが、『ゴーン・ガール』(2014)も観客をまったく飽きさせない素晴らしい作品です!タランティーノ同様にコアなファンを持つフィンチャー監督。特にいまだ熱狂的なファンを持つ『ファイト・クラブ』と『セブン』は、一般的にも高評価を維持し続けています。新作が待ち遠しい監督の一人ですね。ハリウッドを代表する歴史的名俳優と、同じ名前を持つスティーヴ・マックイーン。ロンドン出身のマックイーン監督は現在までに3作の長編映画を手掛けていますが、どの作品も質は高く、高評価を得ています。デビュー作『HUNGER ハンガー』(2014)は、1981年に発生した北アイルランドの刑務所でのハンガー・ストライキを中心に描いていることもあり、とても憂鬱な気分になる映画です。2作目のセックス依存症を抱えた男を描いた『SHAME シェイム』(2012)は「ハンガー」以上に気分が滅入る作品。実在した黒人奴隷ソロモン・ノーサップを描いた3作目『それでも夜は明ける』(2014)も含め、すべてが憂鬱映画......マックイーン監督はそういう映画が好きなのでしょうか?しかし彼は、社会的に大きな議論を呼ぶ出来事を映画として描くことを恐れない、数少ない監督の一人と言えるでしょう。代表作となった『それでも夜は明ける』では、黒人社会とも白人社会とも隔絶された「自由黒人」という立場のソロモンを主人公に据え、現代にも通じるサバイバル精神を見せつけて、新しい映像作家の地位を確立しました。目を背けたくなるようなシーンも多いですが、言い換えればマックイーン監督は、本物の映画監督なのではないでしょうか。良質な作品を生み出すコーエン兄弟監督は、ほかに類をみない方法で映画製作に携わってきました。彼ら独特のアプローチやスタイルがあり、いろんなジャンル作品を通して感じることができます。有名な映画は『ファーゴ』(1996)ですが、『赤ちゃん泥棒』(1988)や『ビッグ・リボウスキ 』(1998)、『バーン・アフター・リーディング』(2009)など数々のユニーク作品を生み出してきました。そして、アメリカとメキシコの国境地帯を舞台に麻薬取引の大金を巡った壮絶な争いを描いた『ノーカントリー』(2008)は批評家から絶賛され、アカデミー賞作品賞や監督賞をはじめとする4部門を受賞。監督としての名声をより確固たるものにしました。これまでに一番高い評価を受けた『ノーカントリー』はもちろん、デビュー作『ブラッド・シンプル』(1987)や、コーエン兄弟ならではのクライム・サスペンス『ミラーズ・クロッシング』(1991)、『バートン・フィンク』(1992)など初期の作品も、彼らの独特の世界観が色濃く出た傑作ぞろいです。「マッドマックス」シリーズでおなじみジョージ・ミラー監督ですが、30年ぶりのシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)はこの15年間の彼の作品のなかも、最も刺激的なアクション大作ではないでしょうか。なんといっても「マッドマックス」のファン層はアツイ!シリーズ最高作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のモノクロバージョンである「クローム&ブラックエディション」も熱狂的な支持を受けました。「マッドマックス」シリーズ以外にも、『イーストウィックの魔女たち』(1987)や『ベイブ/都会へ行く(1999)』、『ハッピー フィート』(2007)などを監督のほか脚本・製作も担当するなど、コンスタントに活動しながらもジャンルの全く違うヒット作を生み出してきました。さらに、難病の息子を助けるため尽力した両親の実話を元にしたドラマ『ロレンツォのオイル/命の詩』(1993)も、高い評価を獲得しています。映画監督とは、映画製作において映像の制作面を統括している責任者です。製作面ではプロデューサーが最高権を持ち、監督選びもプロデューサーに一任されます。いわば映画製作の権限ではNo.2といった地位。しかし制作の現場ではNo.1の権限を持ち、映画公開後は監督の名も重要な宣伝材料となってきます。また、自分の作りたい作品を作って商業的に成功させるには、プロデューサーとの交渉術も重要。作家性の高い監督は脚本や編集も自ら行うことも多いようです。映画監督の実務は完成した脚本を手にしてから始まります。まず決めるのは配役、そして撮影を行う場所を決める“ロケハン”を行います。そして衣裳合わせをして俳優やスタッフとの顔合わせが終わると、いよいよ撮影です。すべての撮影が終了したら、編集作業で作品として完成させていきます。スパイク・ジョーンズの作品を一言でいうと、まさに“ユニーク”がピッタリ。初監督作品『マルコヴィッチの穴』(2000)は奇想天外さで注目を集め、『かいじゅうたちのいるところ』(2010)は青天の霹靂とも言える衝撃作です。また、2013年に脚本と監督を務めた『her/世界でひとつの彼女』(2014)は、最新の人工知能を持ったコンピュータのオペレーティングシステムに恋をする男を描いた物語。代表作となった『her/世界でひとつの彼女』や『マルコヴィッチの穴』は、ジョーンズ監督の着眼点の素晴らしさを証明した作品といえます。また『かいじゅうたちのいるところ』では、世界的絵本作家モーリス・センダックの代表作を見事に実写映像化し、その力量を世界に示しました。ラース・フォン・トリアー監督の世界観は、方向感覚を失うような経験と言えるかもしれません。それは不吉で邪悪な何かと向き合うということを意味しており、その邪悪なものとはモンスターや悪魔と言った分かりやすいものではなく、「憂鬱」や「絶望」といった感情的地獄を表しています。この感情的地獄はトリアー監督がテーマとするもので、あまりに衝撃的すぎる内容のため議論を呼ぶ作品も少なくありません。トリアー=議論と言っても過言ではなく、映画が公開される度にいい意味でも悪い意味でも、メディアで注目を浴びています。「鬱三部作」の最終作である『ニンフォマニアック』(2014)は性的むき出しの衝撃作ですが、憂鬱さと不調和さが自然に描かれており、ばかばかしさと同時に素晴らしいと感じる作品です。代表作となった『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)は、トリアー監督の真骨頂ともいえる衝撃作で、鬱映画が語られる時には必ず出てくる作品。しかしやはり、大きな議論を呼ぶことこそが、トリアー作品の醍醐味なのかもしれません。そんな鬱映画の名手・トリアー監督が手がける新作は、マット・ディロン主演の『ハウス・ジャック・ビルト』。シリアルキラーのジャックを主人公とした心理スリラーです。ドキュメンタリー出身の映画監督で、脚本・プロデュースも自身で務める是枝裕和。1995年に『幻の光』で映画監督としてデビューを飾り、それ以降も国内外の映画賞で数々の賞を受賞するなど、国境を越えて高い評価を受けています。2018年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『万引き家族』は、国内外で高評価を獲得しました。日本アカデミー賞の常連で、2015年の『海街diary』から2017年『三度目の殺人』、2018年『万引き家族』と立て続けに最優秀監督賞を受賞しています。最初に大きく注目されたのは2004年の『誰も知らない』。主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で、最年少で日本人初の最優秀男優賞を受賞したことでも話題となりました。『万引き家族』に次ぐ評価を受けている『歩いても 歩いても』(2008)は、監督自身の母親を反映させた作品。ドキュメンタリーをベースに普遍的な家族の物語を紡ぎ出す是枝監督ならではの手法は、国を越えて映画ファンを魅了し続けています。韓国の映画監督兼脚本家であるポン・ジュノは、色々なジャンルの傑作を生みだしています。それらの作品は彼の脳であり体でもあり、彼のような映画監督は世界で類を見ないオリジナル的存在です。『殺人の追憶』(2004)を筆頭に、『グエムル 漢江の怪物』(2006)、『母なる証明』(2009)、『スノーピアサー』(2014)はジュノ監督の代表作で、SF・ドラマ・サスペンスとジャンルは違えど、素晴らしい作品ばかり。そんな彼の作品の特徴として、豪華なビジュアルスタイルとストーリーの明暗が挙げられます。例えば『グエムル 漢江の怪物』では、最初はホラーかと思いきや後半は全く別のストーリーへと変わり、『母なる証明』はダークとコメディの間を往復しているような作風です。これはジュノ監督しか成し得ない手法だと言えるでしょう。2017年の『オクジャ/okja』は第70回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールの候補となりましたが、キュアロン監督の『ROMA/ローマ』同様、配信映画は映画賞から除外するべきとの意見が。しかし、それほどまでに作品の評価が高いという裏返しでもあります。クリストファー・ノーランはよく“現代のスタンリー・キューブリック”と呼ばれるほど、他の監督にはない鋭いビジョンを持っている数少ない監督です。ノーラン監督は「破壊」や「転覆」といった要素を好み、『メメント』(2001)や『インソムニア』(2002)など多くの作品で、ストーリーが進行する中で様々な紆余曲折や巧妙なトリックを仕込んでいます。おそらくそれは単に観客を楽しませたいという思いからで、忘れられないイメージを残したいのではないでしょうか。芸術とヒット作の両方を求めるノーランのような映画監督は、ハリウッドでは彼ただ一人といっても過言ではありません。新たな代表作となった2014年の『インターステラー』は斬新な映像表現でSF映画の歴史を変え、SF好きにはもちろん、一般的にも非常に高い評価を獲得しています。また同様に高評価の『ダークナイト』も、アメコミ映画を一気に芸術作品にまで押し上げた傑作です。また2017年には実話を元にした戦争映画『ダンケルク』を監督し、製作と脚本も務めました。本作は第90回アカデミー賞で作品賞をはじめ8部門にノミネートされ、編集・音響編集・録音の3部門で受賞しています。その映像センスが改めて高く評価された瞬間でした。才能に恵まれ、自分の作品を作るためには決して信念を曲げない映画監督は世界中で評価され続けています。そんな世界に名だたる映画監督たち25人を、ランキング形式で紹介していきます。ハリウッドはもちろん、様々な国で活躍している著名な監督たちの、高評価で有名な作品も合わせて紹介。さらに映画監督という仕事にも初めに触れていきます。実際どんな仕事をしているのか、どうしたら映画監督になれるのか、興味のある方はぜひ併せてご覧ください!メキシコ出身のアルフォンソ・キュアロンは、良質な作品世に送り出す天才映画監督。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)の監督だったとは知らない人も多いかもしれませんが、それ以外にも『トゥモロー・ワールド』(2006)や『パリ、ジュテーム』(2007)を監督。2013年の『ゼロ・グラビティ』では、第86回アカデミー賞監督賞と撮影賞を受賞しました。そんなキュアロン監督は、SFを駆使した未来映画を頭に描いている一方で、別の作品の構想も練れてしまう多才な人物です。自らが脚本を書いて撮影し、製作・監督・編集も務めた『ROMA/ローマ』(2019)は、第91回アカデミー賞で監督賞と撮影賞、またメキシコ映画として外国語映画賞も受賞。Netfilxで配信された後に映画館で公開されるといった話題性と、配信映画を映画賞の対象にすべきかという議論も巻き起こしました。配信映画でさえも劇場公開できる良質な作品に仕上げてしまい、映画賞の対象にせざるを得ないほどの傑作を作り続けるキュアロン監督。これからも映画界でもストリーミング配信業界でも、引っ張りだこになることは間違いないでしょう。“小津調”と呼ばれる独自の映像世界の中で、日本の伝統的な美や離散していく家族の悲哀を描き続けた小津安二郎。その普遍性は世界中で世代も越え、広く高い評価を受けています。1923年に撮影助手として松竹蒲田撮影所へ入所し、1925年からは助監督を務めながら映画製作を現場で学びました。その2年後に監督に昇進した小津は、多い時は一年に7本もの作品を撮り、1937年に戦争へ召集されるまでに37作の映画を制作。1930年代にはすでに国内で高い評価を得ていました。1939年に一度除隊して映画製作を再開しますが、1943年に軍報道部映画班として従軍。終戦後に帰国し、1947年から再び監督に復帰しています。それ以降は年一回のペースで内容の濃い作品を作り続け、特に1950年代の作品には傑作が生まれました。1953年の『東京物語』は小津監督の代表作であり、国内はもちろん海外でも最も評価の高い作品です。『晩春』(1949)や『麦秋』(1951)、さらに1959年の『お早よう』と『浮草』は『東京物語』と同等の高い評価を受けており、まさに50年代は小津監督の黄金期といえるでしょう。ロー・ポジションでの撮影法や、原節子や笠智衆といった「小津組」といわれる俳優たち、計算された美しい構図などが特徴の“小津調”。これに影響を受けた映画監督も多く、2012年には英国映画協会が発表した「史上最高の映画」第1位に『東京物語』が選出されました。これは世界の著名な映画監督358人が選んだもので、いかに小津作品が長く広く愛され続けているかを示しています。リチャード・リンクレイターはハリウッドのなかで最も興味をそそる映画監督と言われており、『スキャナー・ダークリー』(2006)のようなインディ色の強い作品から、『スクール・オブ・ロック』(2004)のようなヒット作を作れる映画監督はなかなかいません。彼の代表作で有名なのが、ある若い男女の出会いを描いた『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995)、2人の再会を描いた『ビフォア・サンセット』(2004)、結婚した現在を描いた『ビフォア・ミッドナイト』(2013)の「ビフォア」シリーズ3部作。会話の多いシーンと共にもう一度観たいと思わせ、情熱的で現実的。そんな申し分ない作品を作れるのは、リンクレイター監督だったからかもしれません。また彼は映画監督としてこれまでにない偉業を、ある作品で成し遂げました。主人公である6歳の少年メイソンが18歳になるまでを描いた『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)は、エラー・コルトレーン演じるメイソンが子供から青年に成長していく姿を追って、2002年の夏から2013年の10月までの12年間を通して断続的に撮影が行われました。1本の映画としては異例ともいえる本作は批評家や観客から絶賛され、ゴールデングローブ賞ほか数々の賞で監督賞を受賞しています。ウェス・アンダーソンはオトゥールズ(個人のスタイルを貫き創造的な統制を保つ映画製作者)で、年齢を重ねると共に新たなことにチャレンジし、良い作品を製作しています。彼の撮影手法は非常に特異で独創性に溢れており、2014年に公開された『グランド・ブダペスト・ホテル』は興行的にも批評的にも大成功を収めた傑作です。アンダーソンもまた、駄作と呼べない素晴らしい映画を作る数少ない監督の一人であり、彼のユニークな着眼点は神の眼とも言われています。世界中で多くのファンが新作を待ち望み、絶大な人気を誇っているアンダーソン監督。特に高い評価を受けているのは、ストップモーション・アニメの『犬ヶ島』(2018)と『ファンタスティック Mr.FOX』(2011)。今後もどんな作品を見せてくれるのか、アンダーソン監督ならではの新作が待ち遠しいものです。クリエイティブで革新的、そして才能溢れる映画監督はハリウッドのみならず、世界各国に存在しています。周囲の反対や逆境にも負けず、自分の信じる道を突き進んで良い映画を作る、それが良い映画監督。この記事では最高の映画監督25人を、国内外問わず紹介!